ニュースレター「サンゴ礁の自然環境」

2016年5月号

これであなたも魚通!?

~方言から迫る沖縄の食用魚~

2017年8月号

沖縄の海の現在と未来

写真2 実食 散々美味しそうな(一部そうでもなさそうな!?)魚たちを紹介してきましたので、この辺りで食レポに挑戦して見たいと思います。というのも、この牧志公設市場では、魚を販売しているだけでなく、なんとその場で調理もしてくれるんです。そこで私は、ひしめき合う中国人観光客にまぎれて、冒頭で紹介したグルクン(写真 3a)と、ちょうどお手頃価格だったレンコダイ(写真3c)を購入して調理をお願いしました。(今回、三大高級魚は時期外れということもあり私の手持ちの金額では対応できませんでした。気になる方はぜひご自分の足と舌で出向いてみることをお勧めします。) ・・・待つこと五分ほど・・・ グルクンのから揚げ(写真3b)とレンコダイのガーリックバター焼き*³(写真 3d)が香ばしい香りと共に出てきました!(調理方法はお好きなものが選べます)グルクンは今まで何度か食べたことがあるのですが、クセがなく飽きのこないさっぱりとしたいい味でした。グルクンは唐揚げにすることで骨まで軟らかく食べられることで有名で、今回も骨まで頂きました。続いてレンコダイ。バターの香りが口の中で十分に広がり、フワッとした舌触りでほとんど噛まずに喉を通ります。この値段でこんなに美味しいのだから三大高級魚はどれほどおいしいのか!と期待が溢れますが、予算の不足加減に後悔の念が止まりませんでした。
写真3 今一度、住んでいる場所を見直して・・ 私は沖縄に住んで四年になりますが、沖縄の魚事情は恥ずかしながら知らないことばかりで、今回の取材が大変勉強になりました。なにより牧志公設市場の人たちはとても気さくな方が多く、色々とお話を伺わせて頂くことが出来ました。今回は、沖縄という日本の中でも独特な自然・文化を持つ地域についてご紹介しましたが、皆さんが住んでいる地域にだって、実は知らなかったことが少なからずあると思います。少しのきっかけからその物事に対して深入りしてみると、意外な発見が待っています。地域の魅力を再発見してみることは、とても楽しく有意義なことですし、時には美味しかったりもするはず。是非皆さんも自分が今住んでいる地域の「なぜ?」に深入りしてみてはいかがでしょうか? *¹ 藤原 昌高(2015). 美味しいマイナー魚介図鑑. 初版 東京都 株式会社マイナビ 122p *² 小菅 文治 (2004). 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性. 農林統計調査, 54(12): 36-39. *³ 沖縄ではバター焼きの調理方法がメニュー等でよくみられます。というのも沖縄の魚は白身で淡白な魚が多いため、バターやオイルで魚の旨みを引き出してくれる理にかなった食べ方なのです。 執筆者 和泉 遼太郎
プロローグ 現在、私はアルバイトで某飲食店のホールスタッフとして働いています。そこであるカルチャーショックに出くわしたことがあります。働き始めて間もない頃のことです。厨房の中で、どうやら沖縄の方言で「ミミジャー!」、「ビタロー!」、「クチナジ!」と、全く謎の単語が飛び交っていたのです。皆さんはこれらの言葉がわかりますか?例えば店のスタッフに「ミミジャー用意しといて!」と言われても、沖縄に住み始めて数年の私にとっては謎の正体が掴めぬまま何をしていいかもわかりませんでした。のちにどうやら、方言で魚の種類を言っていることがわかってきました。そのような経緯があり、私は沖縄の食用魚の独特な方言に興味を抱きました。 いざ牧志公設市場へ そこで今回は、実際に観光客で賑わう那覇市の国際通りにある、沖縄の台所とも呼ばれる牧志公設市場に出向いてみました。そこでは魚のみならず、豚の顔や豚の足などの珍しい(沖縄では普通ですが)食肉から島らっきょうや南国フルーツなど、沖縄を代表する食材が数多く売られています。 沖縄は沿岸域にサンゴ礁が発達し、暖かい黒潮の影響を受ける関係から、本州とは異なる珍しい魚が水揚げされ、よく食べられています。恐らく沖縄の方言で最も有名なのは「グルクン」(写真1a)というお魚。これは標準和名ではタカサゴ科魚のことを指します。というのも沖縄の方言で指す魚は一種ではなく複数の種を含んでいることが多いのです。海洋写真家の中村征夫さんが最近出版された、グルクンを追う伝統的な漁「アギヤー」に迫った写真集「遥かなるグルクン」でも話題です。沖縄の家庭料理でも馴染み深く、唐揚げがポピュラーな食べ方です。 また公設市場で一際目立つのはなんといっても「イラブチャー」というお魚(写真 1b)。これはブダイ科の魚を指します。こんなに色彩豊かな食用魚なんてそういないと思います。青色が強く、少し毒々しい印象があるのも否めません。市場でも多くの観光客が物珍しそうに眺めていました。代表的な調理方法は、刺身や唐揚げ、マース煮などが挙げられます。ちなみにマース煮とは沖縄独特の煮魚調理法で、「マース」は方言で塩のことを指します。そこに沖縄産の蒸留酒である「泡盛」を加えて煮ることで魚本来の旨みが楽しめます。 そしてこちらはプロローグにて登場したお魚、「ミミジャー(和名:ヒメフエダイ)」(写真 1c上)と「ビタロー(今回の写真でもそうですが多くはハナフエダイのことを指します。しかしヨスジフエダイのことを指す場合もあります。)」(写真1c下)です。日本国民に共通して馴染みのある魚とは言えませんが、どちらも国内では静岡県の伊豆半島や神奈川県付近まで生息しているそうです。しかし、「ミミジャー」は沖縄や鹿児島県以外で漁獲されることは珍しく、「珍魚」扱いされてしまうのだそうです*¹。また、「ビタロー」は日本国内では沖縄県が最も漁獲量が多いことが特徴です*²。そのためどちらも沖縄を代表する魚の仲間といえるでしょう。ちなみにプロローグにて登場した「クチナジ」は今回市場では見つけられなかったのですが、イソフエフキのことを指し、飲食店でもよく扱われています
写真1
いわずとしれた沖縄の三大高級魚 「アカマチ(和名:ハマダイ)」(写真2a)「アカジン(和名:スジアラ)」(写真 2b)「マクブ(和名:シロクラベラ)」(写真 2c)という三種類のお魚。大変美味しいことから沖縄の三大高級魚とされています。写真からも分かるとおり、なんだか他のお魚と比べると見た目だけで貫禄があるように感じます。その中でも例えばアカジンの「ジン」とは’お金’を意味する方言で、このアカジンは’高く売れるお魚’という意味を持っています。
写真2 実食 散々美味しそうな(一部そうでもなさそうな!?)魚たちを紹介してきましたので、この辺りで食レポに挑戦して見たいと思います。というのも、この牧志公設市場では、魚を販売しているだけでなく、なんとその場で調理もしてくれるんです。そこで私は、ひしめき合う中国人観光客にまぎれて、冒頭で紹介したグルクン(写真 3a)と、ちょうどお手頃価格だったレンコダイ(写真3c)を購入して調理をお願いしました。(今回、三大高級魚は時期外れということもあり私の手持ちの金額では対応できませんでした。気になる方はぜひご自分の足と舌で出向いてみることをお勧めします。) ・・・待つこと五分ほど・・・ グルクンのから揚げ(写真3b)とレンコダイのガーリックバター焼き*³(写真 3d)が香ばしい香りと共に出てきました!(調理方法はお好きなものが選べます)グルクンは今まで何度か食べたことがあるのですが、クセがなく飽きのこないさっぱりとしたいい味でした。グルクンは唐揚げにすることで骨まで軟らかく食べられることで有名で、今回も骨まで頂きました。続いてレンコダイ。バターの香りが口の中で十分に広がり、フワッとした舌触りでほとんど噛まずに喉を通ります。この値段でこんなに美味しいのだから三大高級魚はどれほどおいしいのか!と期待が溢れますが、予算の不足加減に後悔の念が止まりませんでした。
写真3 今一度、住んでいる場所を見直して・・ 私は沖縄に住んで四年になりますが、沖縄の魚事情は恥ずかしながら知らないことばかりで、今回の取材が大変勉強になりました。なにより牧志公設市場の人たちはとても気さくな方が多く、色々とお話を伺わせて頂くことが出来ました。今回は、沖縄という日本の中でも独特な自然・文化を持つ地域についてご紹介しましたが、皆さんが住んでいる地域にだって、実は知らなかったことが少なからずあると思います。少しのきっかけからその物事に対して深入りしてみると、意外な発見が待っています。地域の魅力を再発見してみることは、とても楽しく有意義なことですし、時には美味しかったりもするはず。是非皆さんも自分が今住んでいる地域の「なぜ?」に深入りしてみてはいかがでしょうか? *¹ 藤原 昌高(2015). 美味しいマイナー魚介図鑑. 初版 東京都 株式会社マイナビ 122p *² 小菅 文治 (2004). 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性. 農林統計調査, 54(12): 36-39. *³ 沖縄ではバター焼きの調理方法がメニュー等でよくみられます。というのも沖縄の魚は白身で淡白な魚が多いため、バターやオイルで魚の旨みを引き出してくれる理にかなった食べ方なのです。 執筆者 和泉 遼太郎
プロローグ 現在、私はアルバイトで某飲食店のホールスタッフとして働いています。そこであるカルチャーショックに出くわしたことがあります。働き始めて間もない頃のことです。厨房の中で、どうやら沖縄の方言で「ミミジャー!」、「ビタロー!」、「クチナジ!」と、全く謎の単語が飛び交っていたのです。皆さんはこれらの言葉がわかりますか?例えば店のスタッフに「ミミジャー用意しといて!」と言われても、沖縄に住み始めて数年の私にとっては謎の正体が掴めぬまま何をしていいかもわかりませんでした。のちにどうやら、方言で魚の種類を言っていることがわかってきました。そのような経緯があり、私は沖縄の食用魚の独特な方言に興味を抱きました。 いざ牧志公設市場へ そこで今回は、実際に観光客で賑わう那覇市の国際通りにある、沖縄の台所とも呼ばれる牧志公設市場に出向いてみました。そこでは魚のみならず、豚の顔や豚の足などの珍しい(沖縄では普通ですが)食肉から島らっきょうや南国フルーツなど、沖縄を代表する食材が数多く売られています。 沖縄は沿岸域にサンゴ礁が発達し、暖かい黒潮の影響を受ける関係から、本州とは異なる珍しい魚が水揚げされ、よく食べられています。恐らく沖縄の方言で最も有名なのは「グルクン」(写真1a)というお魚。これは標準和名ではタカサゴ科魚のことを指します。というのも沖縄の方言で指す魚は一種ではなく複数の種を含んでいることが多いのです。海洋写真家の中村征夫さんが最近出版された、グルクンを追う伝統的な漁「アギヤー」に迫った写真集「遥かなるグルクン」でも話題です。沖縄の家庭料理でも馴染み深く、唐揚げがポピュラーな食べ方です。 また公設市場で一際目立つのはなんといっても「イラブチャー」というお魚(写真 1b)。これはブダイ科の魚を指します。こんなに色彩豊かな食用魚なんてそういないと思います。青色が強く、少し毒々しい印象があるのも否めません。市場でも多くの観光客が物珍しそうに眺めていました。代表的な調理方法は、刺身や唐揚げ、マース煮などが挙げられます。ちなみにマース煮とは沖縄独特の煮魚調理法で、「マース」は方言で塩のことを指します。そこに沖縄産の蒸留酒である「泡盛」を加えて煮ることで魚本来の旨みが楽しめます。 そしてこちらはプロローグにて登場したお魚、「ミミジャー(和名:ヒメフエダイ)」(写真 1c上)と「ビタロー(今回の写真でもそうですが多くはハナフエダイのことを指します。しかしヨスジフエダイのことを指す場合もあります。)」(写真1c下)です。日本国民に共通して馴染みのある魚とは言えませんが、どちらも国内では静岡県の伊豆半島や神奈川県付近まで生息しているそうです。しかし、「ミミジャー」は沖縄や鹿児島県以外で漁獲されることは珍しく、「珍魚」扱いされてしまうのだそうです*¹。また、「ビタロー」は日本国内では沖縄県が最も漁獲量が多いことが特徴です*²。そのためどちらも沖縄を代表する魚の仲間といえるでしょう。ちなみにプロローグにて登場した「クチナジ」は今回市場では見つけられなかったのですが、イソフエフキのことを指し、飲食店でもよく扱われています
写真1
いわずとしれた沖縄の三大高級魚 「アカマチ(和名:ハマダイ)」(写真2a)「アカジン(和名:スジアラ)」(写真 2b)「マクブ(和名:シロクラベラ)」(写真 2c)という三種類のお魚。大変美味しいことから沖縄の三大高級魚とされています。写真からも分かるとおり、なんだか他のお魚と比べると見た目だけで貫禄があるように感じます。その中でも例えばアカジンの「ジン」とは’お金’を意味する方言で、このアカジンは’高く売れるお魚’という意味を持っています。
写真2 実食 散々美味しそうな(一部そうでもなさそうな!?)魚たちを紹介してきましたので、この辺りで食レポに挑戦して見たいと思います。というのも、この牧志公設市場では、魚を販売しているだけでなく、なんとその場で調理もしてくれるんです。そこで私は、ひしめき合う中国人観光客にまぎれて、冒頭で紹介したグルクン(写真 3a)と、ちょうどお手頃価格だったレンコダイ(写真3c)を購入して調理をお願いしました。(今回、三大高級魚は時期外れということもあり私の手持ちの金額では対応できませんでした。気になる方はぜひご自分の足と舌で出向いてみることをお勧めします。) ・・・待つこと五分ほど・・・ グルクンのから揚げ(写真3b)とレンコダイのガーリックバター焼き*³(写真 3d)が香ばしい香りと共に出てきました!(調理方法はお好きなものが選べます)グルクンは今まで何度か食べたことがあるのですが、クセがなく飽きのこないさっぱりとしたいい味でした。グルクンは唐揚げにすることで骨まで軟らかく食べられることで有名で、今回も骨まで頂きました。続いてレンコダイ。バターの香りが口の中で十分に広がり、フワッとした舌触りでほとんど噛まずに喉を通ります。この値段でこんなに美味しいのだから三大高級魚はどれほどおいしいのか!と期待が溢れますが、予算の不足加減に後悔の念が止まりませんでした。
写真3 今一度、住んでいる場所を見直して・・ 私は沖縄に住んで四年になりますが、沖縄の魚事情は恥ずかしながら知らないことばかりで、今回の取材が大変勉強になりました。なにより牧志公設市場の人たちはとても気さくな方が多く、色々とお話を伺わせて頂くことが出来ました。今回は、沖縄という日本の中でも独特な自然・文化を持つ地域についてご紹介しましたが、皆さんが住んでいる地域にだって、実は知らなかったことが少なからずあると思います。少しのきっかけからその物事に対して深入りしてみると、意外な発見が待っています。地域の魅力を再発見してみることは、とても楽しく有意義なことですし、時には美味しかったりもするはず。是非皆さんも自分が今住んでいる地域の「なぜ?」に深入りしてみてはいかがでしょうか? *¹ 藤原 昌高(2015). 美味しいマイナー魚介図鑑. 初版 東京都 株式会社マイナビ 122p *² 小菅 文治 (2004). 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性. 農林統計調査, 54(12): 36-39. *³ 沖縄ではバター焼きの調理方法がメニュー等でよくみられます。というのも沖縄の魚は白身で淡白な魚が多いため、バターやオイルで魚の旨みを引き出してくれる理にかなった食べ方なのです。 執筆者 和泉 遼太郎
プロローグ 現在、私はアルバイトで某飲食店のホールスタッフとして働いています。そこであるカルチャーショックに出くわしたことがあります。働き始めて間もない頃のことです。厨房の中で、どうやら沖縄の方言で「ミミジャー!」、「ビタロー!」、「クチナジ!」と、全く謎の単語が飛び交っていたのです。皆さんはこれらの言葉がわかりますか?例えば店のスタッフに「ミミジャー用意しといて!」と言われても、沖縄に住み始めて数年の私にとっては謎の正体が掴めぬまま何をしていいかもわかりませんでした。のちにどうやら、方言で魚の種類を言っていることがわかってきました。そのような経緯があり、私は沖縄の食用魚の独特な方言に興味を抱きました。 いざ牧志公設市場へ そこで今回は、実際に観光客で賑わう那覇市の国際通りにある、沖縄の台所とも呼ばれる牧志公設市場に出向いてみました。そこでは魚のみならず、豚の顔や豚の足などの珍しい(沖縄では普通ですが)食肉から島らっきょうや南国フルーツなど、沖縄を代表する食材が数多く売られています。 沖縄は沿岸域にサンゴ礁が発達し、暖かい黒潮の影響を受ける関係から、本州とは異なる珍しい魚が水揚げされ、よく食べられています。恐らく沖縄の方言で最も有名なのは「グルクン」(写真1a)というお魚。これは標準和名ではタカサゴ科魚のことを指します。というのも沖縄の方言で指す魚は一種ではなく複数の種を含んでいることが多いのです。海洋写真家の中村征夫さんが最近出版された、グルクンを追う伝統的な漁「アギヤー」に迫った写真集「遥かなるグルクン」でも話題です。沖縄の家庭料理でも馴染み深く、唐揚げがポピュラーな食べ方です。 また公設市場で一際目立つのはなんといっても「イラブチャー」というお魚(写真 1b)。これはブダイ科の魚を指します。こんなに色彩豊かな食用魚なんてそういないと思います。青色が強く、少し毒々しい印象があるのも否めません。市場でも多くの観光客が物珍しそうに眺めていました。代表的な調理方法は、刺身や唐揚げ、マース煮などが挙げられます。ちなみにマース煮とは沖縄独特の煮魚調理法で、「マース」は方言で塩のことを指します。そこに沖縄産の蒸留酒である「泡盛」を加えて煮ることで魚本来の旨みが楽しめます。 そしてこちらはプロローグにて登場したお魚、「ミミジャー(和名:ヒメフエダイ)」(写真 1c上)と「ビタロー(今回の写真でもそうですが多くはハナフエダイのことを指します。しかしヨスジフエダイのことを指す場合もあります。)」(写真1c下)です。日本国民に共通して馴染みのある魚とは言えませんが、どちらも国内では静岡県の伊豆半島や神奈川県付近まで生息しているそうです。しかし、「ミミジャー」は沖縄や鹿児島県以外で漁獲されることは珍しく、「珍魚」扱いされてしまうのだそうです*¹。また、「ビタロー」は日本国内では沖縄県が最も漁獲量が多いことが特徴です*²。そのためどちらも沖縄を代表する魚の仲間といえるでしょう。ちなみにプロローグにて登場した「クチナジ」は今回市場では見つけられなかったのですが、イソフエフキのことを指し、飲食店でもよく扱われています
写真1
いわずとしれた沖縄の三大高級魚 「アカマチ(和名:ハマダイ)」(写真2a)「アカジン(和名:スジアラ)」(写真 2b)「マクブ(和名:シロクラベラ)」(写真 2c)という三種類のお魚。大変美味しいことから沖縄の三大高級魚とされています。写真からも分かるとおり、なんだか他のお魚と比べると見た目だけで貫禄があるように感じます。その中でも例えばアカジンの「ジン」とは’お金’を意味する方言で、このアカジンは’高く売れるお魚’という意味を持っています。
写真2 実食 散々美味しそうな(一部そうでもなさそうな!?)魚たちを紹介してきましたので、この辺りで食レポに挑戦して見たいと思います。というのも、この牧志公設市場では、魚を販売しているだけでなく、なんとその場で調理もしてくれるんです。そこで私は、ひしめき合う中国人観光客にまぎれて、冒頭で紹介したグルクン(写真 3a)と、ちょうどお手頃価格だったレンコダイ(写真3c)を購入して調理をお願いしました。(今回、三大高級魚は時期外れということもあり私の手持ちの金額では対応できませんでした。気になる方はぜひご自分の足と舌で出向いてみることをお勧めします。) ・・・待つこと五分ほど・・・ グルクンのから揚げ(写真3b)とレンコダイのガーリックバター焼き*³(写真 3d)が香ばしい香りと共に出てきました!(調理方法はお好きなものが選べます)グルクンは今まで何度か食べたことがあるのですが、クセがなく飽きのこないさっぱりとしたいい味でした。グルクンは唐揚げにすることで骨まで軟らかく食べられることで有名で、今回も骨まで頂きました。続いてレンコダイ。バターの香りが口の中で十分に広がり、フワッとした舌触りでほとんど噛まずに喉を通ります。この値段でこんなに美味しいのだから三大高級魚はどれほどおいしいのか!と期待が溢れますが、予算の不足加減に後悔の念が止まりませんでした。
写真3 今一度、住んでいる場所を見直して・・ 私は沖縄に住んで四年になりますが、沖縄の魚事情は恥ずかしながら知らないことばかりで、今回の取材が大変勉強になりました。なにより牧志公設市場の人たちはとても気さくな方が多く、色々とお話を伺わせて頂くことが出来ました。今回は、沖縄という日本の中でも独特な自然・文化を持つ地域についてご紹介しましたが、皆さんが住んでいる地域にだって、実は知らなかったことが少なからずあると思います。少しのきっかけからその物事に対して深入りしてみると、意外な発見が待っています。地域の魅力を再発見してみることは、とても楽しく有意義なことですし、時には美味しかったりもするはず。是非皆さんも自分が今住んでいる地域の「なぜ?」に深入りしてみてはいかがでしょうか? *¹ 藤原 昌高(2015). 美味しいマイナー魚介図鑑. 初版 東京都 株式会社マイナビ 122p *² 小菅 文治 (2004). 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性. 農林統計調査, 54(12): 36-39. *³ 沖縄ではバター焼きの調理方法がメニュー等でよくみられます。というのも沖縄の魚は白身で淡白な魚が多いため、バターやオイルで魚の旨みを引き出してくれる理にかなった食べ方なのです。 執筆者 和泉 遼太郎
プロローグ 現在、私はアルバイトで某飲食店のホールスタッフとして働いています。そこであるカルチャーショックに出くわしたことがあります。働き始めて間もない頃のことです。厨房の中で、どうやら沖縄の方言で「ミミジャー!」、「ビタロー!」、「クチナジ!」と、全く謎の単語が飛び交っていたのです。皆さんはこれらの言葉がわかりますか?例えば店のスタッフに「ミミジャー用意しといて!」と言われても、沖縄に住み始めて数年の私にとっては謎の正体が掴めぬまま何をしていいかもわかりませんでした。のちにどうやら、方言で魚の種類を言っていることがわかってきました。そのような経緯があり、私は沖縄の食用魚の独特な方言に興味を抱きました。 いざ牧志公設市場へ そこで今回は、実際に観光客で賑わう那覇市の国際通りにある、沖縄の台所とも呼ばれる牧志公設市場に出向いてみました。そこでは魚のみならず、豚の顔や豚の足などの珍しい(沖縄では普通ですが)食肉から島らっきょうや南国フルーツなど、沖縄を代表する食材が数多く売られています。 沖縄は沿岸域にサンゴ礁が発達し、暖かい黒潮の影響を受ける関係から、本州とは異なる珍しい魚が水揚げされ、よく食べられています。恐らく沖縄の方言で最も有名なのは「グルクン」(写真1a)というお魚。これは標準和名ではタカサゴ科魚のことを指します。というのも沖縄の方言で指す魚は一種ではなく複数の種を含んでいることが多いのです。海洋写真家の中村征夫さんが最近出版された、グルクンを追う伝統的な漁「アギヤー」に迫った写真集「遥かなるグルクン」でも話題です。沖縄の家庭料理でも馴染み深く、唐揚げがポピュラーな食べ方です。 また公設市場で一際目立つのはなんといっても「イラブチャー」というお魚(写真 1b)。これはブダイ科の魚を指します。こんなに色彩豊かな食用魚なんてそういないと思います。青色が強く、少し毒々しい印象があるのも否めません。市場でも多くの観光客が物珍しそうに眺めていました。代表的な調理方法は、刺身や唐揚げ、マース煮などが挙げられます。ちなみにマース煮とは沖縄独特の煮魚調理法で、「マース」は方言で塩のことを指します。そこに沖縄産の蒸留酒である「泡盛」を加えて煮ることで魚本来の旨みが楽しめます。 そしてこちらはプロローグにて登場したお魚、「ミミジャー(和名:ヒメフエダイ)」(写真 1c上)と「ビタロー(今回の写真でもそうですが多くはハナフエダイのことを指します。しかしヨスジフエダイのことを指す場合もあります。)」(写真1c下)です。日本国民に共通して馴染みのある魚とは言えませんが、どちらも国内では静岡県の伊豆半島や神奈川県付近まで生息しているそうです。しかし、「ミミジャー」は沖縄や鹿児島県以外で漁獲されることは珍しく、「珍魚」扱いされてしまうのだそうです*¹。また、「ビタロー」は日本国内では沖縄県が最も漁獲量が多いことが特徴です*²。そのためどちらも沖縄を代表する魚の仲間といえるでしょう。ちなみにプロローグにて登場した「クチナジ」は今回市場では見つけられなかったのですが、イソフエフキのことを指し、飲食店でもよく扱われています
写真1 いわずとしれた沖縄の三大高級魚 「アカマチ(和名:ハマダイ)」(写真2a)「アカジン(和名:スジアラ)」(写真 2b)「マクブ(和名:シロクラベラ)」(写真 2c)という三種類のお魚。大変美味しいことから沖縄の三大高級魚とされています。写真からも分かるとおり、なんだか他のお魚と比べると見た目だけで貫禄があるように感じます。その中でも例えばアカジンの「ジン」とは’お金’を意味する方言で、このアカジンは’高く売れるお魚’という意味を持っています。
写真2 実食 散々美味しそうな(一部そうでもなさそうな!?)魚たちを紹介してきましたので、この辺りで食レポに挑戦して見たいと思います。というのも、この牧志公設市場では、魚を販売しているだけでなく、なんとその場で調理もしてくれるんです。そこで私は、ひしめき合う中国人観光客にまぎれて、冒頭で紹介したグルクン(写真 3a)と、ちょうどお手頃価格だったレンコダイ(写真3c)を購入して調理をお願いしました。(今回、三大高級魚は時期外れということもあり私の手持ちの金額では対応できませんでした。気になる方はぜひご自分の足と舌で出向いてみることをお勧めします。) ・・・待つこと五分ほど・・・ グルクンのから揚げ(写真3b)とレンコダイのガーリックバター焼き*³(写真 3d)が香ばしい香りと共に出てきました!(調理方法はお好きなものが選べます)グルクンは今まで何度か食べたことがあるのですが、クセがなく飽きのこないさっぱりとしたいい味でした。グルクンは唐揚げにすることで骨まで軟らかく食べられることで有名で、今回も骨まで頂きました。続いてレンコダイ。バターの香りが口の中で十分に広がり、フワッとした舌触りでほとんど噛まずに喉を通ります。この値段でこんなに美味しいのだから三大高級魚はどれほどおいしいのか!と期待が溢れますが、予算の不足加減に後悔の念が止まりませんでした。
写真3 今一度、住んでいる場所を見直して・・ 私は沖縄に住んで四年になりますが、沖縄の魚事情は恥ずかしながら知らないことばかりで、今回の取材が大変勉強になりました。なにより牧志公設市場の人たちはとても気さくな方が多く、色々とお話を伺わせて頂くことが出来ました。今回は、沖縄という日本の中でも独特な自然・文化を持つ地域についてご紹介しましたが、皆さんが住んでいる地域にだって、実は知らなかったことが少なからずあると思います。少しのきっかけからその物事に対して深入りしてみると、意外な発見が待っています。地域の魅力を再発見してみることは、とても楽しく有意義なことですし、時には美味しかったりもするはず。是非皆さんも自分が今住んでいる地域の「なぜ?」に深入りしてみてはいかがでしょうか? *¹ 藤原 昌高(2015). 美味しいマイナー魚介図鑑. 初版 東京都 株式会社マイナビ 122p *² 小菅 文治 (2004). 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性. 農林統計調査, 54(12): 36-39. *³ 沖縄ではバター焼きの調理方法がメニュー等でよくみられます。というのも沖縄の魚は白身で淡白な魚が多いため、バターやオイルで魚の旨みを引き出してくれる理にかなった食べ方なのです。 執筆者 和泉 遼太郎