ニュースレター「サンゴ礁の自然環境」

2016年3月号

子供から学ぶハマダイコンの事実

子供たちの疑問から ハマダイコンを通じて仲良くなっていくと、子供たちからたくさん質問を投げかけられました。答えられる質問もいくつかありましたが、中には一瞬答えに詰まるような質問もあり、「うーん、にぃにぃもわかんないなぁ。お互い調べてきて、次会った時に答え合わせしよう!」と言ったことを覚えています。皆さんは、例えばこんな質問に自信をもって答えられますか? ・ハマダイコンと売っているダイコンって何が違うの? ・ハマダイコンの種を畑に植えたらダイコンになるの? ・ハマダイコンって美味しいのに何でどこにも売ってないの? これをきっかけに、ハマダイコンがどういった植物なのか調べてみました。ハマダイコンは地中海原産のアブラナ科の植物ですが、沖縄をはじめ日本全土に分布しています。海岸付近に行くと普通に見られる、代表的な海岸植物と言えます。沖縄には多くのビーチや海沿いの施設があり、人目に付きやすい場所にもハマダイコンが群生していることが多いです。しかし、海岸で遊んでいる高校生や犬の散歩に来ている家族等に聞いてみると、食べられるという情報どころかハマダイコンの名前すら知らない人が多かったのです。ちょっと海まで足を運べば誰にでも見つけられ、食べられるというおまけまで付いている植物であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに低い知名度なのでしょうか。その答えの一つとして、「沖縄の文化に根付いていない」ことが考えられます。同じ海岸植物でも、アダンであれば籠や草履等の民具に、モンパノキはミーカガン(水中眼鏡の原型)に、ユウナはトイレットペーパーや六月ウマチー(稲の収穫感謝祭)用のお供え物の器に利用されてきました。どんなに繁茂している植物であろうと、人間に利用されることがなければ、名前すら知られないというのが現実のようです。 ハマダイコンの学名は、Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides であり、ダイコンの変種(var.は変種であることを示す)であることがわかりました。変種とは、同種内であれば母種及び変種間でも交雑可能ですが、形質や好適環境が母種と少し異なる場合に用いられる分類階級です。さらに、いくつかの植物図鑑や学術論文等を見ていくと、「ハマダイコンは栽培種が野生化したもの」、あるいは「ダイコンはハマダイコンを品種改良したもの」といった記述を見つけました。それならば、うまく条件等を合わせて育て、ハマダイコンから市販されているダイコンが作れないかな…?なんてことを考えました。 しかし、さらに調べていくうちに、これらの情報は間違いである可能性が高いことがわかってきました。京都産業大学の山岸氏らは、ハマダイコンおよび栽培ダイコンのミトコンドリアDNAの解析を行い、分子生物学的に「ハマダイコンが栽培ダイコンから野生化したものではない」ことを明らかにしました。つまり、「ハマダイコンを畑に植えてもダイコンにはならない」と言えるようです。 ハマダイコンの可能性 子供の疑問というものは、決して的外れなんかではないのです。前述しましたが、子供たちから、「何でハマダイコンは売ってないの?」と質問されました。若葉を炒め物等に利用したりするという話は聞いたことがありますが、根の部分は市販のダイコンに比べて小さく、固い繊維質であるため利用する人はいないと思います。それに、ハマダイコンを食べてみたことがある人は、(ちょっと食べてみるならまだしも、さすがに売り物にはならないだろ…)なんて思うかもしれませんが、現在ハマダイコンの栽培について真剣に研究されているようです。

2015年9月号

貝殻にまん丸の穴を開けたのは誰?

2015年10月号

電灯潜り漁の世界

2015年11月号

フジツボに魅せられて脚まねきが誘うフジツボの世界

2015年12月号

沖縄のカブトガニは夢か幻か

2016年2月号

沖縄の海への憧れから研究へ

2016年3月号

子供から学ぶハマダイコンの事実

2016年4月号

こどもたちに大人気のクワガタムシ!じゃあ、海のクワガタムシは?

2016年5月号

これであなたも魚通!?~方言から迫る沖縄の食用魚~

2016年6月号

タカラガイの世界

2016年7月号

-国際サンゴ礁学会ハワイ大会-体験記

2016年9月号

サンゴの運命は如何に!?

2016年10月号

海面に雪だるま!?

~ウミショウブの雄花~

2017年4月号

春の代名詞を知る

~沖縄と本土の桜の違いとは?~

2017年5月号

沖縄の熱いビール文化

~知られざるサンゴとビールの関係~

2017年6月号

月を感じる沖縄の生き物

2017年7月号

夜の海の派手な世界

2017年8月号

沖縄の海の現在と未来

2017年9月号

サンゴの一斉産卵から見る環境の変化

2017年10月号

知ってますか? スクガラス

2017年11月号

陸の中の海

ーアンキアライン洞窟にくらす不思議な生き物たちー

写真2 ハマダイコンの根  島根大学の伴氏らによって、2009年に「ハマダイコンの栽培化と利用について」という学術論文が出版されました。そこでは、自生するハマダイコンを畑に定植させた後、根部が適度に肥大した個体の選別と採種を繰り返し、得られた5代目のハマダイコンに対して食味評価等を行なったというものでした。結果としては、日本そばの薬味として知られる「辛みダイコン」と同等な食味評価を得ていました。今後栽培化が進めば、海岸で雑草のように扱われているハマダイコンが、スーパーに並ぶ日が来るかもしれませんね! おわりに 海岸を散歩する習慣のある人であれば、ハマダイコンを目にしたことがあるはずです。僕も何度も見てきましたが、海岸風景の一部という認識しかありませんでした。今回、子供たちの何気ない疑問から、見慣れてしまっている物事からも、まだまだ学ぶことがたくさんあることがわかりました。研究の世界に身を置く人間としては、先輩方、先生方、研究者の方々から頂く質問やアドバイスはとても勉強になりますが、小さい子たちが持つ純粋な疑問の中にも、自身の勉強になることが結構多いです。子供たちの疑問に耳を傾けて、科学的な視点を持って突き詰めていくと、面白い発見や経験をすることができるかもしれませんね。また、生物を求めてフィールドに行くと、ついつい「面白い生物」や「珍しい生物」に焦点を当ててしまいがちですが、「食べられる生物」という切り口で外の世界を見ても面白いのではないでしょうか。そうすることで、あまり生物に興味を持っていない人々にも関心を持ってもらうきっかけを作ることができるかもしれません。 執筆者 久保村 俊己
子供から学ぶハマダイコンの事実
 以前、海岸を散歩している時に、地元の小学生に声をかけられました。 「にぃにぃ、これ知ってるー?おいしいよー!」 その子たちが手に持っていたものは、海岸でよく見られる「ハマダイコン」でした。
写真1 吉の浦海岸に生育するハマダイコン
子供たちの疑問から ハマダイコンを通じて仲良くなっていくと、子供たちからたくさん質問を投げかけられました。答えられる質問もいくつかありましたが、中には一瞬答えに詰まるような質問もあり、「うーん、にぃにぃもわかんないなぁ。お互い調べてきて、次会った時に答え合わせしよう!」と言ったことを覚えています。皆さんは、例えばこんな質問に自信をもって答えられますか? ・ハマダイコンと売っているダイコンって何が違うの? ・ハマダイコンの種を畑に植えたらダイコンになるの? ・ハマダイコンって美味しいのに何でどこにも売ってないの? これをきっかけに、ハマダイコンがどういった植物なのか調べてみました。ハマダイコンは地中海原産のアブラナ科の植物ですが、沖縄をはじめ日本全土に分布しています。海岸付近に行くと普通に見られる、代表的な海岸植物と言えます。沖縄には多くのビーチや海沿いの施設があり、人目に付きやすい場所にもハマダイコンが群生していることが多いです。しかし、海岸で遊んでいる高校生や犬の散歩に来ている家族等に聞いてみると、食べられるという情報どころかハマダイコンの名前すら知らない人が多かったのです。ちょっと海まで足を運べば誰にでも見つけられ、食べられるというおまけまで付いている植物であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに低い知名度なのでしょうか。その答えの一つとして、「沖縄の文化に根付いていない」ことが考えられます。同じ海岸植物でも、アダンであれば籠や草履等の民具に、モンパノキはミーカガン(水中眼鏡の原型)に、ユウナはトイレットペーパーや六月ウマチー(稲の収穫感謝祭)用のお供え物の器に利用されてきました。どんなに繁茂している植物であろうと、人間に利用されることがなければ、名前すら知られないというのが現実のようです。 ハマダイコンの学名は、Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides であり、ダイコンの変種(var.は変種であることを示す)であることがわかりました。変種とは、同種内であれば母種及び変種間でも交雑可能ですが、形質や好適環境が母種と少し異なる場合に用いられる分類階級です。さらに、いくつかの植物図鑑や学術論文等を見ていくと、「ハマダイコンは栽培種が野生化したもの」、あるいは「ダイコンはハマダイコンを品種改良したもの」といった記述を見つけました。それならば、うまく条件等を合わせて育て、ハマダイコンから市販されているダイコンが作れないかな…?なんてことを考えました。 しかし、さらに調べていくうちに、これらの情報は間違いである可能性が高いことがわかってきました。京都産業大学の山岸氏らは、ハマダイコンおよび栽培ダイコンのミトコンドリアDNAの解析を行い、分子生物学的に「ハマダイコンが栽培ダイコンから野生化したものではない」ことを明らかにしました。つまり、「ハマダイコンを畑に植えてもダイコンにはならない」と言えるようです。 ハマダイコンの可能性 子供の疑問というものは、決して的外れなんかではないのです。前述しましたが、子供たちから、「何でハマダイコンは売ってないの?」と質問されました。若葉を炒め物等に利用したりするという話は聞いたことがありますが、根の部分は市販のダイコンに比べて小さく、固い繊維質であるため利用する人はいないと思います。それに、ハマダイコンを食べてみたことがある人は、(ちょっと食べてみるならまだしも、さすがに売り物にはならないだろ…)なんて思うかもしれませんが、現在ハマダイコンの栽培について真剣に研究されているようです。
写真2 ハマダイコンの根  島根大学の伴氏らによって、2009年に「ハマダイコンの栽培化と利用について」という学術論文が出版されました。そこでは、自生するハマダイコンを畑に定植させた後、根部が適度に肥大した個体の選別と採種を繰り返し、得られた5代目のハマダイコンに対して食味評価等を行なったというものでした。結果としては、日本そばの薬味として知られる「辛みダイコン」と同等な食味評価を得ていました。今後栽培化が進めば、海岸で雑草のように扱われているハマダイコンが、スーパーに並ぶ日が来るかもしれませんね! おわりに 海岸を散歩する習慣のある人であれば、ハマダイコンを目にしたことがあるはずです。僕も何度も見てきましたが、海岸風景の一部という認識しかありませんでした。今回、子供たちの何気ない疑問から、見慣れてしまっている物事からも、まだまだ学ぶことがたくさんあることがわかりました。研究の世界に身を置く人間としては、先輩方、先生方、研究者の方々から頂く質問やアドバイスはとても勉強になりますが、小さい子たちが持つ純粋な疑問の中にも、自身の勉強になることが結構多いです。子供たちの疑問に耳を傾けて、科学的な視点を持って突き詰めていくと、面白い発見や経験をすることができるかもしれませんね。また、生物を求めてフィールドに行くと、ついつい「面白い生物」や「珍しい生物」に焦点を当ててしまいがちですが、「食べられる生物」という切り口で外の世界を見ても面白いのではないでしょうか。そうすることで、あまり生物に興味を持っていない人々にも関心を持ってもらうきっかけを作ることができるかもしれません。 執筆者 久保村 俊己
子供から学ぶハマダイコンの事実
 以前、海岸を散歩している時に、地元の小学生に声をかけられました。 「にぃにぃ、これ知ってるー?おいしいよー!」 その子たちが手に持っていたものは、海岸でよく見られる「ハマダイコン」でした。
写真1 吉の浦海岸に生育するハマダイコン
子供たちの疑問から ハマダイコンを通じて仲良くなっていくと、子供たちからたくさん質問を投げかけられました。答えられる質問もいくつかありましたが、中には一瞬答えに詰まるような質問もあり、「うーん、にぃにぃもわかんないなぁ。お互い調べてきて、次会った時に答え合わせしよう!」と言ったことを覚えています。皆さんは、例えばこんな質問に自信をもって答えられますか? ・ハマダイコンと売っているダイコンって何が違うの? ・ハマダイコンの種を畑に植えたらダイコンになるの? ・ハマダイコンって美味しいのに何でどこにも売ってないの? これをきっかけに、ハマダイコンがどういった植物なのか調べてみました。ハマダイコンは地中海原産のアブラナ科の植物ですが、沖縄をはじめ日本全土に分布しています。海岸付近に行くと普通に見られる、代表的な海岸植物と言えます。沖縄には多くのビーチや海沿いの施設があり、人目に付きやすい場所にもハマダイコンが群生していることが多いです。しかし、海岸で遊んでいる高校生や犬の散歩に来ている家族等に聞いてみると、食べられるという情報どころかハマダイコンの名前すら知らない人が多かったのです。ちょっと海まで足を運べば誰にでも見つけられ、食べられるというおまけまで付いている植物であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに低い知名度なのでしょうか。その答えの一つとして、「沖縄の文化に根付いていない」ことが考えられます。同じ海岸植物でも、アダンであれば籠や草履等の民具に、モンパノキはミーカガン(水中眼鏡の原型)に、ユウナはトイレットペーパーや六月ウマチー(稲の収穫感謝祭)用のお供え物の器に利用されてきました。どんなに繁茂している植物であろうと、人間に利用されることがなければ、名前すら知られないというのが現実のようです。 ハマダイコンの学名は、Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides であり、ダイコンの変種(var.は変種であることを示す)であることがわかりました。変種とは、同種内であれば母種及び変種間でも交雑可能ですが、形質や好適環境が母種と少し異なる場合に用いられる分類階級です。さらに、いくつかの植物図鑑や学術論文等を見ていくと、「ハマダイコンは栽培種が野生化したもの」、あるいは「ダイコンはハマダイコンを品種改良したもの」といった記述を見つけました。それならば、うまく条件等を合わせて育て、ハマダイコンから市販されているダイコンが作れないかな…?なんてことを考えました。 しかし、さらに調べていくうちに、これらの情報は間違いである可能性が高いことがわかってきました。京都産業大学の山岸氏らは、ハマダイコンおよび栽培ダイコンのミトコンドリアDNAの解析を行い、分子生物学的に「ハマダイコンが栽培ダイコンから野生化したものではない」ことを明らかにしました。つまり、「ハマダイコンを畑に植えてもダイコンにはならない」と言えるようです。 ハマダイコンの可能性 子供の疑問というものは、決して的外れなんかではないのです。前述しましたが、子供たちから、「何でハマダイコンは売ってないの?」と質問されました。若葉を炒め物等に利用したりするという話は聞いたことがありますが、根の部分は市販のダイコンに比べて小さく、固い繊維質であるため利用する人はいないと思います。それに、ハマダイコンを食べてみたことがある人は、(ちょっと食べてみるならまだしも、さすがに売り物にはならないだろ…)なんて思うかもしれませんが、現在ハマダイコンの栽培について真剣に研究されているようです。
写真2 ハマダイコンの根  島根大学の伴氏らによって、2009年に「ハマダイコンの栽培化と利用について」という学術論文が出版されました。そこでは、自生するハマダイコンを畑に定植させた後、根部が適度に肥大した個体の選別と採種を繰り返し、得られた5代目のハマダイコンに対して食味評価等を行なったというものでした。結果としては、日本そばの薬味として知られる「辛みダイコン」と同等な食味評価を得ていました。今後栽培化が進めば、海岸で雑草のように扱われているハマダイコンが、スーパーに並ぶ日が来るかもしれませんね! おわりに 海岸を散歩する習慣のある人であれば、ハマダイコンを目にしたことがあるはずです。僕も何度も見てきましたが、海岸風景の一部という認識しかありませんでした。今回、子供たちの何気ない疑問から、見慣れてしまっている物事からも、まだまだ学ぶことがたくさんあることがわかりました。研究の世界に身を置く人間としては、先輩方、先生方、研究者の方々から頂く質問やアドバイスはとても勉強になりますが、小さい子たちが持つ純粋な疑問の中にも、自身の勉強になることが結構多いです。子供たちの疑問に耳を傾けて、科学的な視点を持って突き詰めていくと、面白い発見や経験をすることができるかもしれませんね。また、生物を求めてフィールドに行くと、ついつい「面白い生物」や「珍しい生物」に焦点を当ててしまいがちですが、「食べられる生物」という切り口で外の世界を見ても面白いのではないでしょうか。そうすることで、あまり生物に興味を持っていない人々にも関心を持ってもらうきっかけを作ることができるかもしれません。 執筆者 久保村 俊己
子供から学ぶハマダイコンの事実
 以前、海岸を散歩している時に、地元の小学生に声をかけられました。 「にぃにぃ、これ知ってるー?おいしいよー!」 その子たちが手に持っていたものは、海岸でよく見られる「ハマダイコン」でした。
写真1 吉の浦海岸に生育するハマダイコン
子供たちの疑問から ハマダイコンを通じて仲良くなっていくと、子供たちからたくさん質問を投げかけられました。答えられる質問もいくつかありましたが、中には一瞬答えに詰まるような質問もあり、「うーん、にぃにぃもわかんないなぁ。お互い調べてきて、次会った時に答え合わせしよう!」と言ったことを覚えています。皆さんは、例えばこんな質問に自信をもって答えられますか? ・ハマダイコンと売っているダイコンって何が違うの? ・ハマダイコンの種を畑に植えたらダイコンになるの? ・ハマダイコンって美味しいのに何でどこにも売ってないの? これをきっかけに、ハマダイコンがどういった植物なのか調べてみました。ハマダイコンは地中海原産のアブラナ科の植物ですが、沖縄をはじめ日本全土に分布しています。海岸付近に行くと普通に見られる、代表的な海岸植物と言えます。沖縄には多くのビーチや海沿いの施設があり、人目に付きやすい場所にもハマダイコンが群生していることが多いです。しかし、海岸で遊んでいる高校生や犬の散歩に来ている家族等に聞いてみると、食べられるという情報どころかハマダイコンの名前すら知らない人が多かったのです。ちょっと海まで足を運べば誰にでも見つけられ、食べられるというおまけまで付いている植物であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに低い知名度なのでしょうか。その答えの一つとして、「沖縄の文化に根付いていない」ことが考えられます。同じ海岸植物でも、アダンであれば籠や草履等の民具に、モンパノキはミーカガン(水中眼鏡の原型)に、ユウナはトイレットペーパーや六月ウマチー(稲の収穫感謝祭)用のお供え物の器に利用されてきました。どんなに繁茂している植物であろうと、人間に利用されることがなければ、名前すら知られないというのが現実のようです。 ハマダイコンの学名は、Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides であり、ダイコンの変種(var.は変種であることを示す)であることがわかりました。変種とは、同種内であれば母種及び変種間でも交雑可能ですが、形質や好適環境が母種と少し異なる場合に用いられる分類階級です。さらに、いくつかの植物図鑑や学術論文等を見ていくと、「ハマダイコンは栽培種が野生化したもの」、あるいは「ダイコンはハマダイコンを品種改良したもの」といった記述を見つけました。それならば、うまく条件等を合わせて育て、ハマダイコンから市販されているダイコンが作れないかな…?なんてことを考えました。 しかし、さらに調べていくうちに、これらの情報は間違いである可能性が高いことがわかってきました。京都産業大学の山岸氏らは、ハマダイコンおよび栽培ダイコンのミトコンドリアDNAの解析を行い、分子生物学的に「ハマダイコンが栽培ダイコンから野生化したものではない」ことを明らかにしました。つまり、「ハマダイコンを畑に植えてもダイコンにはならない」と言えるようです。 ハマダイコンの可能性 子供の疑問というものは、決して的外れなんかではないのです。前述しましたが、子供たちから、「何でハマダイコンは売ってないの?」と質問されました。若葉を炒め物等に利用したりするという話は聞いたことがありますが、根の部分は市販のダイコンに比べて小さく、固い繊維質であるため利用する人はいないと思います。それに、ハマダイコンを食べてみたことがある人は、(ちょっと食べてみるならまだしも、さすがに売り物にはならないだろ…)なんて思うかもしれませんが、現在ハマダイコンの栽培について真剣に研究されているようです。
写真2 ハマダイコンの根  島根大学の伴氏らによって、2009年に「ハマダイコンの栽培化と利用について」という学術論文が出版されました。そこでは、自生するハマダイコンを畑に定植させた後、根部が適度に肥大した個体の選別と採種を繰り返し、得られた5代目のハマダイコンに対して食味評価等を行なったというものでした。結果としては、日本そばの薬味として知られる「辛みダイコン」と同等な食味評価を得ていました。今後栽培化が進めば、海岸で雑草のように扱われているハマダイコンが、スーパーに並ぶ日が来るかもしれませんね! おわりに 海岸を散歩する習慣のある人であれば、ハマダイコンを目にしたことがあるはずです。僕も何度も見てきましたが、海岸風景の一部という認識しかありませんでした。今回、子供たちの何気ない疑問から、見慣れてしまっている物事からも、まだまだ学ぶことがたくさんあることがわかりました。研究の世界に身を置く人間としては、先輩方、先生方、研究者の方々から頂く質問やアドバイスはとても勉強になりますが、小さい子たちが持つ純粋な疑問の中にも、自身の勉強になることが結構多いです。子供たちの疑問に耳を傾けて、科学的な視点を持って突き詰めていくと、面白い発見や経験をすることができるかもしれませんね。また、生物を求めてフィールドに行くと、ついつい「面白い生物」や「珍しい生物」に焦点を当ててしまいがちですが、「食べられる生物」という切り口で外の世界を見ても面白いのではないでしょうか。そうすることで、あまり生物に興味を持っていない人々にも関心を持ってもらうきっかけを作ることができるかもしれません。 執筆者 久保村 俊己
子供から学ぶハマダイコンの事実
 以前、海岸を散歩している時に、地元の小学生に声をかけられました。 「にぃにぃ、これ知ってるー?おいしいよー!」 その子たちが手に持っていたものは、海岸でよく見られる「ハマダイコン」でした。
写真1 吉の浦海岸に生育するハマダイコン
子供たちの疑問から ハマダイコンを通じて仲良くなっていくと、子供たちからたくさん質問を投げかけられました。答えられる質問もいくつかありましたが、中には一瞬答えに詰まるような質問もあり、「うーん、にぃにぃもわかんないなぁ。お互い調べてきて、次会った時に答え合わせしよう!」と言ったことを覚えています。皆さんは、例えばこんな質問に自信をもって答えられますか? ・ハマダイコンと売っているダイコンって何が違うの? ・ハマダイコンの種を畑に植えたらダイコンになるの? ・ハマダイコンって美味しいのに何でどこにも売ってないの? これをきっかけに、ハマダイコンがどういった植物なのか調べてみました。ハマダイコンは地中海原産のアブラナ科の植物ですが、沖縄をはじめ日本全土に分布しています。海岸付近に行くと普通に見られる、代表的な海岸植物と言えます。沖縄には多くのビーチや海沿いの施設があり、人目に付きやすい場所にもハマダイコンが群生していることが多いです。しかし、海岸で遊んでいる高校生や犬の散歩に来ている家族等に聞いてみると、食べられるという情報どころかハマダイコンの名前すら知らない人が多かったのです。ちょっと海まで足を運べば誰にでも見つけられ、食べられるというおまけまで付いている植物であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに低い知名度なのでしょうか。その答えの一つとして、「沖縄の文化に根付いていない」ことが考えられます。同じ海岸植物でも、アダンであれば籠や草履等の民具に、モンパノキはミーカガン(水中眼鏡の原型)に、ユウナはトイレットペーパーや六月ウマチー(稲の収穫感謝祭)用のお供え物の器に利用されてきました。どんなに繁茂している植物であろうと、人間に利用されることがなければ、名前すら知られないというのが現実のようです。 ハマダイコンの学名は、Raphanus sativus var. hortensis f. raphanistroides であり、ダイコンの変種(var.は変種であることを示す)であることがわかりました。変種とは、同種内であれば母種及び変種間でも交雑可能ですが、形質や好適環境が母種と少し異なる場合に用いられる分類階級です。さらに、いくつかの植物図鑑や学術論文等を見ていくと、「ハマダイコンは栽培種が野生化したもの」、あるいは「ダイコンはハマダイコンを品種改良したもの」といった記述を見つけました。それならば、うまく条件等を合わせて育て、ハマダイコンから市販されているダイコンが作れないかな…?なんてことを考えました。 しかし、さらに調べていくうちに、これらの情報は間違いである可能性が高いことがわかってきました。京都産業大学の山岸氏らは、ハマダイコンおよび栽培ダイコンのミトコンドリアDNAの解析を行い、分子生物学的に「ハマダイコンが栽培ダイコンから野生化したものではない」ことを明らかにしました。つまり、「ハマダイコンを畑に植えてもダイコンにはならない」と言えるようです。 ハマダイコンの可能性 子供の疑問というものは、決して的外れなんかではないのです。前述しましたが、子供たちから、「何でハマダイコンは売ってないの?」と質問されました。若葉を炒め物等に利用したりするという話は聞いたことがありますが、根の部分は市販のダイコンに比べて小さく、固い繊維質であるため利用する人はいないと思います。それに、ハマダイコンを食べてみたことがある人は、(ちょっと食べてみるならまだしも、さすがに売り物にはならないだろ…)なんて思うかもしれませんが、現在ハマダイコンの栽培について真剣に研究されているようです。
写真2 ハマダイコンの根  島根大学の伴氏らによって、2009年に「ハマダイコンの栽培化と利用について」という学術論文が出版されました。そこでは、自生するハマダイコンを畑に定植させた後、根部が適度に肥大した個体の選別と採種を繰り返し、得られた5代目のハマダイコンに対して食味評価等を行なったというものでした。結果としては、日本そばの薬味として知られる「辛みダイコン」と同等な食味評価を得ていました。今後栽培化が進めば、海岸で雑草のように扱われているハマダイコンが、スーパーに並ぶ日が来るかもしれませんね! おわりに 海岸を散歩する習慣のある人であれば、ハマダイコンを目にしたことがあるはずです。僕も何度も見てきましたが、海岸風景の一部という認識しかありませんでした。今回、子供たちの何気ない疑問から、見慣れてしまっている物事からも、まだまだ学ぶことがたくさんあることがわかりました。研究の世界に身を置く人間としては、先輩方、先生方、研究者の方々から頂く質問やアドバイスはとても勉強になりますが、小さい子たちが持つ純粋な疑問の中にも、自身の勉強になることが結構多いです。子供たちの疑問に耳を傾けて、科学的な視点を持って突き詰めていくと、面白い発見や経験をすることができるかもしれませんね。また、生物を求めてフィールドに行くと、ついつい「面白い生物」や「珍しい生物」に焦点を当ててしまいがちですが、「食べられる生物」という切り口で外の世界を見ても面白いのではないでしょうか。そうすることで、あまり生物に興味を持っていない人々にも関心を持ってもらうきっかけを作ることができるかもしれません。 執筆者 久保村 俊己