ニュースレター「サンゴ礁の自然環境」

2015年2月号

干潟を集団行進する多脚型ロボット…ではなくカニ

 人間がこのカニを捕まえるのはとても簡単です。潜る深さも2-3cmほどなので、潜ったところを覚えておき、指先でほじくり出してしまえば、この通り。 ミナミコメツキガニのプライベートを激写! するには… さて、野外で観察と言いましたが、ミナミコメツキガニの普段の姿をじっくり見るのは意外と大変です。動きが鈍い代わりに、大変に警戒心が強いからです。人影が見えると、すべての個体が一目散に回転しながら砂の中へと消えます。その様たるや、まるでシンクロナイズド・スイミングを見ているようです。おそらく、空から水鳥に襲われたら1、2匹はやられるでしょうが、その間に他の個体は砂の中へ逃げおおせるのでしょう。 一度ほじくり返して捕まえてしまうと、もう完全に逃げることしか考えられないようで、写真を撮ろうとしても「なにするのさ、やめて〜!」と逃げ腰の姿しか見せてくれません。 砂を口に含みながら「ああ、有機物うめ〜」と言わんばかりにくつろいでいる姿を観察したくて、一計を講じました。干潮で水の引いた干潟にヨガなどで使うマットを敷いて寝転がり、カメラを構えてひたすら待ちます。20-30分ほど待ってようやく、辺りを警戒しながら砂から出てきました。
 ここで少しでも動いたのがばれると、「…やっぱやめた」とばかりにじりじりと砂の中にもどってしまい、また20分待ちです。出てくるときは次々に出てくるので、どうも砂に隠れている時間はカニの“体内時計”で決まっているようです。今回、手のひらに載せている写真以外の写真は、実は全てこうして「出待ち」で撮ったものです。 ちなみに、ミナミコメツキガニには決まった巣穴などはないようで、引き潮の時間帯は潮の満ち引きに合わせて干潟を移動して餌を食べ、完全に潮が満ちているときはじっと砂の中に隠れているようです。 当たり前の生き物でも、じっくり観察してみる 一度、BBC(イギリスの国営放送)かどこかのドキュメンタリ番組で、熱帯のどこかの島でこのカニの仲間が集団で行進する映像を見ました。それはそれは素晴らしい映像でしたが、このカニ自体は沖縄の干潟ならどこにでも見られます。上の写真も、車がバンバン通過する国道のすぐ脇の干潟で撮りました(干潟にマットを持ち出して寝転がる僕は、さぞ変な人と思われたことでしょう)。 特に珍しく生き物でも、じっくり腰を据えて観察すると以外と面白いものです。もっともっと身近な生き物、たとえばアリでもカラスでも、10分くらいかけて観察していると思わぬ行動を見せてくれることがあります。また教科書や図鑑を見れば書かれている動物の行動も、実際に自分の目で観察することには掛け替えのない価値と楽しみがあります。ただし観察するときは、くれぐれも不審者として通報されてしまわないように注意して下さいね。 執筆者 宮崎 悠
 さて今回は、ちょっと変わった形のカニについてのお話です。 奇妙な形は何のため? ロボットが出てくるSFが好きな人にこのカニを見せると、世代を問わず「何てメカっぽい形のカニなんだ!」と喜んでもらえます(周りの方で試してみて下さい)。このカニの正式な和名は「ミナミコメツキガニ」といい、熱帯から亜熱帯の干潟に暮らしています。 さて、このカニはなぜ、こんなSFメカ作画監督がデザインしたような形態をしているのでしょう?この疑問は、ミナミコメツキガニを野外でじっくり観察してみると解決します。 まずちょっと反った下向きのハサミ。このカニは砂をすくって口に運び、その砂の中の有機物を選り分けて食べます。後に残った砂は団子状にして、ポイっと捨ててしまいます。ミナミコメツキガニが食事をした後の干潟には、直径5mmほどの砂団子が大量に残ります。
 右から2番目(手前側)のカニはちょうど砂を口に運んでいるところです。一番左(手前)のカニは、砂をもぐもぐやって有機物を濾しています。 素早く動く餌を捕まえたり、襲ってきた敵に反撃したりするのには貧弱すぎるハサミですが、彼らの食事風景を見れば、その形の機能性に唸ってしまいます。 次は、丸い体に不釣り合いに細い脚。どう考えても速く走れそうには見えませんが、実際走れません。他の多くのカニと違って前に歩くことができるのですが、そんなの言い訳にならないくらい足が遅いです。映像で歩く姿を見たときは、干潟というオープンな環境でよく生き残れたなぁ、と不思議になりました。 しかし、このカニが砂に潜るシーンを見るとこの疑問も一発で解決します。このカニは体の右側か左側を下にして、まん丸い体をぐるぐる回転させながら、ちょっとビックリするくらいのスピードで砂に潜っていきます。丸い甲は、普通のカニのような平たい甲より砂に埋もれやすいのは一目瞭然。一見細くて頼りなさそうな脚は、実は砂の表面に跡を残さず砂中に消えるのに、実に都合が良いのです。 というわけで、このカニの奇妙な形は、干潟で生きるということに全身を特化させた結果なのでした。
 人間がこのカニを捕まえるのはとても簡単です。潜る深さも2-3cmほどなので、潜ったところを覚えておき、指先でほじくり出してしまえば、この通り。 ミナミコメツキガニのプライベートを激写! するには… さて、野外で観察と言いましたが、ミナミコメツキガニの普段の姿をじっくり見るのは意外と大変です。動きが鈍い代わりに、大変に警戒心が強いからです。人影が見えると、すべての個体が一目散に回転しながら砂の中へと消えます。その様たるや、まるでシンクロナイズド・スイミングを見ているようです。おそらく、空から水鳥に襲われたら1、2匹はやられるでしょうが、その間に他の個体は砂の中へ逃げおおせるのでしょう。 一度ほじくり返して捕まえてしまうと、もう完全に逃げることしか考えられないようで、写真を撮ろうとしても「なにするのさ、やめて〜!」と逃げ腰の姿しか見せてくれません。 砂を口に含みながら「ああ、有機物うめ〜」と言わんばかりにくつろいでいる姿を観察したくて、一計を講じました。干潮で水の引いた干潟にヨガなどで使うマットを敷いて寝転がり、カメラを構えてひたすら待ちます。20-30分ほど待ってようやく、辺りを警戒しながら砂から出てきました。
 ここで少しでも動いたのがばれると、「…やっぱやめた」とばかりにじりじりと砂の中にもどってしまい、また20分待ちです。出てくるときは次々に出てくるので、どうも砂に隠れている時間はカニの“体内時計”で決まっているようです。今回、手のひらに載せている写真以外の写真は、実は全てこうして「出待ち」で撮ったものです。 ちなみに、ミナミコメツキガニには決まった巣穴などはないようで、引き潮の時間帯は潮の満ち引きに合わせて干潟を移動して餌を食べ、完全に潮が満ちているときはじっと砂の中に隠れているようです。 当たり前の生き物でも、じっくり観察してみる 一度、BBC(イギリスの国営放送)かどこかのドキュメンタリ番組で、熱帯のどこかの島でこのカニの仲間が集団で行進する映像を見ました。それはそれは素晴らしい映像でしたが、このカニ自体は沖縄の干潟ならどこにでも見られます。上の写真も、車がバンバン通過する国道のすぐ脇の干潟で撮りました(干潟にマットを持ち出して寝転がる僕は、さぞ変な人と思われたことでしょう)。 特に珍しく生き物でも、じっくり腰を据えて観察すると以外と面白いものです。もっともっと身近な生き物、たとえばアリでもカラスでも、10分くらいかけて観察していると思わぬ行動を見せてくれることがあります。また教科書や図鑑を見れば書かれている動物の行動も、実際に自分の目で観察することには掛け替えのない価値と楽しみがあります。ただし観察するときは、くれぐれも不審者として通報されてしまわないように注意して下さいね。 執筆者 宮崎 悠
 さて今回は、ちょっと変わった形のカニについてのお話です。 奇妙な形は何のため? ロボットが出てくるSFが好きな人にこのカニを見せると、世代を問わず「何てメカっぽい形のカニなんだ!」と喜んでもらえます(周りの方で試してみて下さい)。このカニの正式な和名は「ミナミコメツキガニ」といい、熱帯から亜熱帯の干潟に暮らしています。 さて、このカニはなぜ、こんなSFメカ作画監督がデザインしたような形態をしているのでしょう?この疑問は、ミナミコメツキガニを野外でじっくり観察してみると解決します。 まずちょっと反った下向きのハサミ。このカニは砂をすくって口に運び、その砂の中の有機物を選り分けて食べます。後に残った砂は団子状にして、ポイっと捨ててしまいます。ミナミコメツキガニが食事をした後の干潟には、直径5mmほどの砂団子が大量に残ります。
 右から2番目(手前側)のカニはちょうど砂を口に運んでいるところです。一番左(手前)のカニは、砂をもぐもぐやって有機物を濾しています。 素早く動く餌を捕まえたり、襲ってきた敵に反撃したりするのには貧弱すぎるハサミですが、彼らの食事風景を見れば、その形の機能性に唸ってしまいます。 次は、丸い体に不釣り合いに細い脚。どう考えても速く走れそうには見えませんが、実際走れません。他の多くのカニと違って前に歩くことができるのですが、そんなの言い訳にならないくらい足が遅いです。映像で歩く姿を見たときは、干潟というオープンな環境でよく生き残れたなぁ、と不思議になりました。 しかし、このカニが砂に潜るシーンを見るとこの疑問も一発で解決します。このカニは体の右側か左側を下にして、まん丸い体をぐるぐる回転させながら、ちょっとビックリするくらいのスピードで砂に潜っていきます。丸い甲は、普通のカニのような平たい甲より砂に埋もれやすいのは一目瞭然。一見細くて頼りなさそうな脚は、実は砂の表面に跡を残さず砂中に消えるのに、実に都合が良いのです。 というわけで、このカニの奇妙な形は、干潟で生きるということに全身を特化させた結果なのでした。
 人間がこのカニを捕まえるのはとても簡単です。潜る深さも2-3cmほどなので、潜ったところを覚えておき、指先でほじくり出してしまえば、この通り。 ミナミコメツキガニのプライベートを激写! するには… さて、野外で観察と言いましたが、ミナミコメツキガニの普段の姿をじっくり見るのは意外と大変です。動きが鈍い代わりに、大変に警戒心が強いからです。人影が見えると、すべての個体が一目散に回転しながら砂の中へと消えます。その様たるや、まるでシンクロナイズド・スイミングを見ているようです。おそらく、空から水鳥に襲われたら1、2匹はやられるでしょうが、その間に他の個体は砂の中へ逃げおおせるのでしょう。 一度ほじくり返して捕まえてしまうと、もう完全に逃げることしか考えられないようで、写真を撮ろうとしても「なにするのさ、やめて〜!」と逃げ腰の姿しか見せてくれません。 砂を口に含みながら「ああ、有機物うめ〜」と言わんばかりにくつろいでいる姿を観察したくて、一計を講じました。干潮で水の引いた干潟にヨガなどで使うマットを敷いて寝転がり、カメラを構えてひたすら待ちます。20-30分ほど待ってようやく、辺りを警戒しながら砂から出てきました。
 ここで少しでも動いたのがばれると、「…やっぱやめた」とばかりにじりじりと砂の中にもどってしまい、また20分待ちです。出てくるときは次々に出てくるので、どうも砂に隠れている時間はカニの“体内時計”で決まっているようです。今回、手のひらに載せている写真以外の写真は、実は全てこうして「出待ち」で撮ったものです。 ちなみに、ミナミコメツキガニには決まった巣穴などはないようで、引き潮の時間帯は潮の満ち引きに合わせて干潟を移動して餌を食べ、完全に潮が満ちているときはじっと砂の中に隠れているようです。 当たり前の生き物でも、じっくり観察してみる 一度、BBC(イギリスの国営放送)かどこかのドキュメンタリ番組で、熱帯のどこかの島でこのカニの仲間が集団で行進する映像を見ました。それはそれは素晴らしい映像でしたが、このカニ自体は沖縄の干潟ならどこにでも見られます。上の写真も、車がバンバン通過する国道のすぐ脇の干潟で撮りました(干潟にマットを持ち出して寝転がる僕は、さぞ変な人と思われたことでしょう)。 特に珍しく生き物でも、じっくり腰を据えて観察すると以外と面白いものです。もっともっと身近な生き物、たとえばアリでもカラスでも、10分くらいかけて観察していると思わぬ行動を見せてくれることがあります。また教科書や図鑑を見れば書かれている動物の行動も、実際に自分の目で観察することには掛け替えのない価値と楽しみがあります。ただし観察するときは、くれぐれも不審者として通報されてしまわないように注意して下さいね。 執筆者 宮崎 悠
 さて今回は、ちょっと変わった形のカニについてのお話です。 奇妙な形は何のため? ロボットが出てくるSFが好きな人にこのカニを見せると、世代を問わず「何てメカっぽい形のカニなんだ!」と喜んでもらえます(周りの方で試してみて下さい)。このカニの正式な和名は「ミナミコメツキガニ」といい、熱帯から亜熱帯の干潟に暮らしています。 さて、このカニはなぜ、こんなSFメカ作画監督がデザインしたような形態をしているのでしょう?この疑問は、ミナミコメツキガニを野外でじっくり観察してみると解決します。 まずちょっと反った下向きのハサミ。このカニは砂をすくって口に運び、その砂の中の有機物を選り分けて食べます。後に残った砂は団子状にして、ポイっと捨ててしまいます。ミナミコメツキガニが食事をした後の干潟には、直径5mmほどの砂団子が大量に残ります。
 右から2番目(手前側)のカニはちょうど砂を口に運んでいるところです。一番左(手前)のカニは、砂をもぐもぐやって有機物を濾しています。 素早く動く餌を捕まえたり、襲ってきた敵に反撃したりするのには貧弱すぎるハサミですが、彼らの食事風景を見れば、その形の機能性に唸ってしまいます。 次は、丸い体に不釣り合いに細い脚。どう考えても速く走れそうには見えませんが、実際走れません。他の多くのカニと違って前に歩くことができるのですが、そんなの言い訳にならないくらい足が遅いです。映像で歩く姿を見たときは、干潟というオープンな環境でよく生き残れたなぁ、と不思議になりました。 しかし、このカニが砂に潜るシーンを見るとこの疑問も一発で解決します。このカニは体の右側か左側を下にして、まん丸い体をぐるぐる回転させながら、ちょっとビックリするくらいのスピードで砂に潜っていきます。丸い甲は、普通のカニのような平たい甲より砂に埋もれやすいのは一目瞭然。一見細くて頼りなさそうな脚は、実は砂の表面に跡を残さず砂中に消えるのに、実に都合が良いのです。 というわけで、このカニの奇妙な形は、干潟で生きるということに全身を特化させた結果なのでした。
 人間がこのカニを捕まえるのはとても簡単です。潜る深さも2-3cmほどなので、潜ったところを覚えておき、指先でほじくり出してしまえば、この通り。 ミナミコメツキガニのプライベートを激写! するには… さて、野外で観察と言いましたが、ミナミコメツキガニの普段の姿をじっくり見るのは意外と大変です。動きが鈍い代わりに、大変に警戒心が強いからです。人影が見えると、すべての個体が一目散に回転しながら砂の中へと消えます。その様たるや、まるでシンクロナイズド・スイミングを見ているようです。おそらく、空から水鳥に襲われたら1、2匹はやられるでしょうが、その間に他の個体は砂の中へ逃げおおせるのでしょう。 一度ほじくり返して捕まえてしまうと、もう完全に逃げることしか考えられないようで、写真を撮ろうとしても「なにするのさ、やめて〜!」と逃げ腰の姿しか見せてくれません。 砂を口に含みながら「ああ、有機物うめ〜」と言わんばかりにくつろいでいる姿を観察したくて、一計を講じました。干潮で水の引いた干潟にヨガなどで使うマットを敷いて寝転がり、カメラを構えてひたすら待ちます。20-30分ほど待ってようやく、辺りを警戒しながら砂から出てきました。
 ここで少しでも動いたのがばれると、「…やっぱやめた」とばかりにじりじりと砂の中にもどってしまい、また20分待ちです。出てくるときは次々に出てくるので、どうも砂に隠れている時間はカニの“体内時計”で決まっているようです。今回、手のひらに載せている写真以外の写真は、実は全てこうして「出待ち」で撮ったものです。 ちなみに、ミナミコメツキガニには決まった巣穴などはないようで、引き潮の時間帯は潮の満ち引きに合わせて干潟を移動して餌を食べ、完全に潮が満ちているときはじっと砂の中に隠れているようです。 当たり前の生き物でも、じっくり観察してみる 一度、BBC(イギリスの国営放送)かどこかのドキュメンタリ番組で、熱帯のどこかの島でこのカニの仲間が集団で行進する映像を見ました。それはそれは素晴らしい映像でしたが、このカニ自体は沖縄の干潟ならどこにでも見られます。上の写真も、車がバンバン通過する国道のすぐ脇の干潟で撮りました(干潟にマットを持ち出して寝転がる僕は、さぞ変な人と思われたことでしょう)。 特に珍しく生き物でも、じっくり腰を据えて観察すると以外と面白いものです。もっともっと身近な生き物、たとえばアリでもカラスでも、10分くらいかけて観察していると思わぬ行動を見せてくれることがあります。また教科書や図鑑を見れば書かれている動物の行動も、実際に自分の目で観察することには掛け替えのない価値と楽しみがあります。ただし観察するときは、くれぐれも不審者として通報されてしまわないように注意して下さいね。 執筆者 宮崎 悠
 さて今回は、ちょっと変わった形のカニについてのお話です。 奇妙な形は何のため? ロボットが出てくるSFが好きな人にこのカニを見せると、世代を問わず「何てメカっぽい形のカニなんだ!」と喜んでもらえます(周りの方で試してみて下さい)。このカニの正式な和名は「ミナミコメツキガニ」といい、熱帯から亜熱帯の干潟に暮らしています。 さて、このカニはなぜ、こんなSFメカ作画監督がデザインしたような形態をしているのでしょう?この疑問は、ミナミコメツキガニを野外でじっくり観察してみると解決します。 まずちょっと反った下向きのハサミ。このカニは砂をすくって口に運び、その砂の中の有機物を選り分けて食べます。後に残った砂は団子状にして、ポイっと捨ててしまいます。ミナミコメツキガニが食事をした後の干潟には、直径5mmほどの砂団子が大量に残ります。
 右から2番目(手前側)のカニはちょうど砂を口に運んでいるところです。一番左(手前)のカニは、砂をもぐもぐやって有機物を濾しています。 素早く動く餌を捕まえたり、襲ってきた敵に反撃したりするのには貧弱すぎるハサミですが、彼らの食事風景を見れば、その形の機能性に唸ってしまいます。 次は、丸い体に不釣り合いに細い脚。どう考えても速く走れそうには見えませんが、実際走れません。他の多くのカニと違って前に歩くことができるのですが、そんなの言い訳にならないくらい足が遅いです。映像で歩く姿を見たときは、干潟というオープンな環境でよく生き残れたなぁ、と不思議になりました。 しかし、このカニが砂に潜るシーンを見るとこの疑問も一発で解決します。このカニは体の右側か左側を下にして、まん丸い体をぐるぐる回転させながら、ちょっとビックリするくらいのスピードで砂に潜っていきます。丸い甲は、普通のカニのような平たい甲より砂に埋もれやすいのは一目瞭然。一見細くて頼りなさそうな脚は、実は砂の表面に跡を残さず砂中に消えるのに、実に都合が良いのです。 というわけで、このカニの奇妙な形は、干潟で生きるということに全身を特化させた結果なのでした。
 人間がこのカニを捕まえるのはとても簡単です。潜る深さも2-3cmほどなので、潜ったところを覚えておき、指先でほじくり出してしまえば、この通り。 ミナミコメツキガニのプライベートを激写! するには… さて、野外で観察と言いましたが、ミナミコメツキガニの普段の姿をじっくり見るのは意外と大変です。動きが鈍い代わりに、大変に警戒心が強いからです。人影が見えると、すべての個体が一目散に回転しながら砂の中へと消えます。その様たるや、まるでシンクロナイズド・スイミングを見ているようです。おそらく、空から水鳥に襲われたら1、2匹はやられるでしょうが、その間に他の個体は砂の中へ逃げおおせるのでしょう。 一度ほじくり返して捕まえてしまうと、もう完全に逃げることしか考えられないようで、写真を撮ろうとしても「なにするのさ、やめて〜!」と逃げ腰の姿しか見せてくれません。 砂を口に含みながら「ああ、有機物うめ〜」と言わんばかりにくつろいでいる姿を観察したくて、一計を講じました。干潮で水の引いた干潟にヨガなどで使うマットを敷いて寝転がり、カメラを構えてひたすら待ちます。20-30分ほど待ってようやく、辺りを警戒しながら砂から出てきました。
 ここで少しでも動いたのがばれると、「…やっぱやめた」とばかりにじりじりと砂の中にもどってしまい、また20分待ちです。出てくるときは次々に出てくるので、どうも砂に隠れている時間はカニの“体内時計”で決まっているようです。今回、手のひらに載せている写真以外の写真は、実は全てこうして「出待ち」で撮ったものです。 ちなみに、ミナミコメツキガニには決まった巣穴などはないようで、引き潮の時間帯は潮の満ち引きに合わせて干潟を移動して餌を食べ、完全に潮が満ちているときはじっと砂の中に隠れているようです。 当たり前の生き物でも、じっくり観察してみる 一度、BBC(イギリスの国営放送)かどこかのドキュメンタリ番組で、熱帯のどこかの島でこのカニの仲間が集団で行進する映像を見ました。それはそれは素晴らしい映像でしたが、このカニ自体は沖縄の干潟ならどこにでも見られます。上の写真も、車がバンバン通過する国道のすぐ脇の干潟で撮りました(干潟にマットを持ち出して寝転がる僕は、さぞ変な人と思われたことでしょう)。 特に珍しく生き物でも、じっくり腰を据えて観察すると以外と面白いものです。もっともっと身近な生き物、たとえばアリでもカラスでも、10分くらいかけて観察していると思わぬ行動を見せてくれることがあります。また教科書や図鑑を見れば書かれている動物の行動も、実際に自分の目で観察することには掛け替えのない価値と楽しみがあります。ただし観察するときは、くれぐれも不審者として通報されてしまわないように注意して下さいね。 執筆者 宮崎 悠